草れ縁
一昨年の秋、ホームセンターの見切品売り場でオットが一つの鉢植えに目をつけた。プラスティックの鉢も入れて、40センチほどの高さ。名札も取れていて何という植物かわからないし、わたしの目から見ると樹形もあまりよろしくない(適切な環境に置かれていなかったために姿が乱れたまま生長してしまったのではないか)のだが、オットがとても気に入ってしまったので、見切り品にしては高いなと思ったが買って帰った。たしか、1000円くらいしたと思う。
その時点では白い花状のものがたくさんついていて、一目見てトウダイグサ、ユーフォルビアの仲間だなということはわかった。花弁に見えるのは「苞(ほう)」と呼ばれる部分。ユーフォルビアの仲間にはよくある形状だ。よく知られている仲間には、クリスマスの時期になると急に引っ張りだこになるポインセチアや、寄せ植えや花壇向きのものとしては初雪草などもある。この謎の植物にも、白いポインセチアの花を直径を3センチ弱に縮小したようなものが、たくさんついていた。ウェブで検索してみると、二つくらい似た品種は見つかるのだけれども、枝ぶりや葉の形が微妙に違っているので同定には至らなかった。
朝晩冷え込むようになると、花は散り始め、冬が来る前にはマメ科植物のような小判型の葉がほとんど落ちてしまった。名前がわからないから正しい手入れの仕方もよくわからないのだが、室内で冬越しさせればいいだろうと高をくくっていた。案の定、暖かくなってきたら新芽が出始め、新しい枝が伸びて一回り大きくなった。
夏には、たくさん葉が出て元気そうだった。ずいぶんと背が伸びてしまったので買ってきたときのプラ鉢ではバランスが取れなくなって、大きめのプラ鉢に移植した。
そして、秋が来て冬が来て……。
はっと気づくと、いつの間にか葉が落ち始めていた。一度も、一つも、花を見なかった。やはり育て方を間違えたのだろうか……。それとも、うちのベランダや室内は、あまり生長に適さない環境なのだろうか。
悩みながらも、春は来て、地震や原発事故にもめげずに、この植物はすくすくと生長を続けた。そろそろまた鉢を替えないといけないほどに育ってきたが、タイミングを逸してそのままの状態で夏を迎え、葉が茂り、秋が来て……。
あれれ。
これだけ育ってきているのに、今年も一向に花芽がつかないではないか。
というあたりで、なんとなくわたしはこの植物を手放す(安楽死させて処分すること)を考え始めていた。というのも、どんどん大きくなるから、きちんと栄養をやるためには年に一度は鉢替えをしなければならない。花をつけないのはかまわないけれど、観葉植物にするにはやや葉が小さすぎる、などなど。
そこで、水やりの頻度を下げ、室内に取り込んだほうがよさそうな気温になっても外に置いたままにしてみた。一応、オットにも相談したほうがいいと思い、たずねてみた(彼は草花を見るのは好きなわりには決して世話をしてはくれないので発言権はあまり与えたくはないのだが、念のため)。
「あの鉢植え、もうそろそろ処分しようかなーと思ってるんだけど」
「えええ?」
オットは寝耳に水だったようだ。まあ、世話をしていないし、鉢替えのタイミングとかそのためにこういうものを買ってこなければとかあれを捨てなければとか、そういう雑多なことはわからないので、そのままずっと置いておけばいいと思っていたらしい。
「もう、これ以上鉢を替えて育て続けても花は咲かないみたいだし」「鉢替えするとしたら鉢を買わなきゃいけないし、土も買わなきゃいけないし、もう東京で売ってる培養土なんてどこの山の腐葉土が混じってるかわからないから怖いし」
などと理由を並べ立ててみたのだけれども、
「樹の形をしたもの(たしかにあのユーフォルビアは、そういう形はしてる)が家にあると落ち着くんだよ」
とかなんとかごねるので、とりあえず、このまま様子をみようということになった。
その数日後のこと。ベランダに出て、消極的に水断ちさせていたユーフォルビアにも水をやろうと見てみると、全然ついていないと思っていた花芽がちらほら。
そして、いまはこのように↓
ユーフォルビアというと、いろいろな特徴があるのだが→ウィキ
わたしの一番の印象は、手折ると皮膚がかぶれるような白い乳状の樹液が出ること。そして多肉植物的な特徴を持つ品種も多いこと。何より、「多幸感」みたいな名前であること。
そんな理由から、ただの植物じゃあるめえと思っていたが、やはりそうであったか。人間の言葉がわかったとしか思えない。
まあ、見切品置き場で目が合ってしまったという縁なのだから、これからもこの草れ縁は続いていくのだろうという気がしている。
ま、まともな園芸家的思考に立ち返ってみると、たぶん去年は大事にしすぎただけなのだ。




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